【保存版】スイスのジュニアテニス事情

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(更新:11月26日, 2019)

直近の4年間は、子どもたち2人の競技テニスのサポートと、末っ子の子育てに追われていた筆者です。競技テニス歴無しの何も分からないところから、先輩テニス親たちとの会話や、子どもたちのサポートを通じて、スイスでのテニス環境や仕組みについて知り、ある程度人に語れるようになりました。それを今回は、ご紹介したいと思います。

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スイスのテニスは、どれくらい強い?
スイステニスの情報が少ないのはなぜ?
スイスでテニスレッスン、お金はどれくらいかかる?
足りない分は、親子や友達練習で補おう
実力があれば、テニス協会の強化選手に
スイステニスの仕組み
テニスと勉強の両立
スイスのテニスクラブ環境
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スイスのテニスは、どれくらい強い?

スイスのテニスの強さは、男子ではロジャー フェデラーやスタン ワウリンカの活躍で知られる通りです。少し前でしたら、女子ではマルチナ ヒンギスの名をご存知の方もいるのではないでしょうか。

ジュニアはどうかといいますと、こちらも結構強いです。ジュニアデビスカップと呼ばれるワールドジュニアテニスで、14歳以下男子のカテゴリにて、2017年スイスは優勝しました。2位はスペイン、3位は日本でしたから、日本もジュニア強いんですよね!ちなみに、その時、スイスを優勝に導いたジェローム キム君は、まだ15歳にも関わらず、今年のデビスカップ代表に抜擢、ダブルスで大活躍し、先日勝利をおさめていました。身長195cm、サーブは200km/時、逸材に間違いありませんが、楽しく、これからもテニスを続けていってほしいと思います。

このような状況を考えると、現在スイスは、子どもがテニスを学ぶには、恰好の国の一つであると言えます。


スイステニスの情報が少ないのはなぜ?

しかしながら、世の中に、少なくとも日本語では、全くスイステニスの情報ってない!と思いませんか?私が思うにおそらくそれは、

  • スイスの公用語がドイツ語、フランス語、イタリア語で(つまり英語ではないということ)日本人が情報を取りづらいということと、
  • テニス留学するにも高額すぎて手が届かず、日本人が留学するならスペインへ行ってしまわれるから、
ではないかと。だったら、私自身が「そうなんだ!」「早く教えてほしかった…。」と思った驚きや発見をお伝えしていこうではないか、と思い立ったわけです。

スイスでテニスレッスン、お金はどれくらいかかる?

通常の物価が日本の2.5倍~3倍ですから、テニスのレッスン費用もそれくらいかかるとお考えいただいてよいと思います。以前、日本の一時帰国中、ある選手育成クラブで一か月ほどお世話になったのですが、こちらで週2回分のレッスン費用で、日本では週6回通えることを知り、とてもショックでした。

では、わが家では日本の給料の2.5倍~3倍スイスでもらえているのかと言えば、そんなことはなく、とてもスイスの通常の子たちと同じ量のレッスンをさせてあげることはできません。そんな事情もあり最初は、「金持ちの子しかスイスではテニスができないのか!?」と怒りを覚えました。が、そんなことをいつまでも言っても、ないものはないので、「だったら、頭を使おう。」と心に決めたのです。その反骨精神が、わが子たちをサポートする原動力となったことは間違いありません。

さて、内訳はだいたいこんな感じです。
  • グループレッスン費   25~33CHF/時×時間
  • プライベートレッスン費 100~130CHF/時×時間
  • 合宿費       800~900CHF/5日(春、夏、秋、冬休み)
    • 試合参加費       65~85CHF/トーナメント
    • コート使用料(クラブのメンバーシップ)、ジュニア150~400CHF、大人650~800CHF
          (1CHF = 約110~120円)

    …こわくて、合計金額計算できませんね。ちなみに、わが家では、グループレッスン(90分×2回/週)のみでプライベートはやっていません。合宿は、年に1~2回?トーナメントは24回/年くらい出ているので、結構な金額になるんですよね。

    グループレッスン費、安いのでは?と思われるかもしれませんが、うまくなればなるほど練習時間が増えていきますし、さらに個別対応のプライベートレッスンを勧められますし、スイスではやたらと学校の休みが多いので(夏休みは9週間!)、合宿の機会も多いので要注意です。

    レッスン費とは別に、クラブのメンバーシップ(コート使用料)がかかるのですが、こちらは日本と比べても良心的な価格と言えるかもしれません。公共コートを都度借りると、10~20CHF/時間くらいですし、スポーツジムに通うのと同じくらいでしょうか。

    実は、最初子どもたちがテニスを始めたいと言い出した時、スイスでテニスを習わせることがこんなに高額なこととは知らずに、後から後から費用が膨らんでいくことに焦りました。筆者はアメリカに数年住んでいたこともあり、あちらでは公共で無料のテニスコートがそこら中にありました。「テニスは無料」というイメージを持っていたので、なおさらです。

    ということで、我が家のように、テニスに湯水のようにお金を使えない家庭は、スイスでは費用の上限を決め、子どもにレッスンを受けさせることが重要かと思います。もし、子どもがプロを目指しているのであれば、早いうちからスポンサー探しをした方が賢明です。ただし、親だけが先走ると、子どもがプレッシャーを感じて逆に萎縮してしまうので、そこは慎重に。

    足りない分は、親子や友達練習で補おう

    子どもがもっと練習したい!と言った場合は、週末に公共のコートを借りるか、自分もクラブのメンバーとなり、親子で練習をしています。テニスをやったことがない親でも、子どもに球出しをしてあげて、的に向かって打つだけでも、大分上達しますよ。実際に、錦織圭や大阪なおみ選手も、初期は親が球出ししてあげていたみたいですしね。そういった親子での練習時間は、かけがえのない思い出となっています。

    また、スイスでは12歳から一人で公共交通機関にのることができるので、それくらいの年齢には、良いテニス友達ができていれば理想ですね。子どもたちだけで出かけて行って、練習することができますから。そういう意味でも、自宅から通いやすいところに、いいコートやクラブがあると良いですね。

    実力があれば、テニス協会の強化選手に

    スイスの各州には、地域テニス協会があります。誰でも実力があれば、テニス協会のカードル(強化選手枠)に選抜され、先にご紹介した通常費用の約半額で、通常練習とは別に、協会での強化練習を受けることができます。わが子もこの枠に選抜され、週に一回、他のクラブの強い選手たちとの合同練習に参加させてもらっています。是非、皆さんも機会があれば、選抜試験(トライアウト)に気軽に挑戦されてみると良いと思います。スイスの人口は約850万人で、日本が約1億2000万人だとすると、単純計算で日本よりも14倍もカードルや代表に選ばれるチャンスがあるのですから。

    もっともっと実力があれば、地域テニス協会を束ねる、スイス全国テニス協会のカードルに入ることができます。実際に、何名か知っているジュニア選手たちが選ばれているのですが、少し奨学金もでるみたいですよ。

    実は、このカードル、強いのに所属しないジュニアもいるのです。様々なご家庭の考えあってのことと思いますが、筆者はあえて子どもを所属させています。それは、他のクラブのテニス仲間との交流はもちろん、地元や国内でテニスイベントがあった際に、カードル選手に声がかかるからです。例えば、今年はレーバーカップ(ヨーロッパ対世界)がスイスで行われるのですが、フェデラーとのプロモーションイベントにカードル選手が何名か呼ばれていました。FBに掲載されていた写真に、たくさんの顔を知っているジュニアが写っており、とても微笑ましく思いました。また、先日スイス国内で行われたフェドカップ(女子のデビスカップ)に、わが子と同じクラブに所属するカードルジュニアが観戦に招待され、スイス女子代表選手の人気者、ティメア バシンスキー選手とツーショットを撮ってもらったと、嬉しそうに教えてくれました。

    以前、とても上手で強いジュニアの保護者に、どうしてお子さんをカードルに所属させないのか伺ってみたことがあります。一番多かった理由の一つは、クラブの担当コーチが快く思わないから、というものでした。個人スポーツですし、コーチがそれなりの実績を持っている方であればなおさらという状況は理解できます。自分がせっかく育て上げた子を他のコーチにとられたくないという心理も働くでしょうし、ましてや、自分の言う事とカードルのコーチの言う事が違っていたりしてしまえば、混乱して迷惑こうむるのはジュニア自身です。

    実はわが子たちは、クラブ初のカードル所属選手でした。当然、元世界10位という実績を持つコーチは最初、難色を示しました。筆者は、上記のように状況を聞いていましたから、想定内の反応でした。そこで筆者のとった対策は、まずはクラブのコーチと、強い信頼関係を築くことでした。それまでも築き上げてきたつもりでしたが、今後も、クラブ第一の姿勢は崩さない、と誠実にコーチに話しました。また、子どもたちにも、まずはクラブのコーチありきで、カードルは補助的な練習にすぎないこと、またもし、クラブの練習とカードルの練習で矛盾が生じた場合(言われていることが違うなど)は、筆者に速やかに教えてくれること、というルールを親子で明確にしました。クラブ練習で取り組んでいる課題や、子どもたちの現状(怪我の状況など)は、筆者がハブとなり、カードルコーチと情報共有を行うことで解決しています。

    以前、ジョコビッチの本を読んだとき、彼の父親はずいぶんとセルビアのテニス協会と固執があるということが書いてありました。真実は定かではありませんが、もし、自分の子どもに実力があるのに、周りのサポートが得られないとなれば、憤る保護者の気持ちも分からなくもありません。が、そこで自分がヘソを曲げたり、マウンティング(動物がどちらか強いか、相手を威嚇しあう行為)をしても、事態は良くなりません。本来、自分の子どもが受けられた恩恵を、親の意地が理由で事態が悪化したとなれば、そもそも親の役割とは何なのでしょうか。結果的にジョコビッチは世界一になりましたが、彼がフェデラーほど世界から愛されていないのは、これまでの過程で親がしゃしゃり出すぎてきたことも一因なのではないかと筆者は思います。できれば誰か、コミュニケーション上手な方が前に出て、関係者とwin-winの関係づくりをしていく方が、私は賢明だと思いますが、いかがでしょうか。

    スイステニスの仕組み

    スイスではほぼ毎週、どこかで公式戦が行われています。それを支えるスイステニスの仕組みが、一元的なシステムですごいのです。

    スイステニスのHP

    所属クラブにお願いしてライセンスを取得すれば、後はオンラインで自分のランク、カテゴリ(年齢層)、期間、州などを指定して、スイス全土の試合が検索できます。申し込みもクリックで完了。しかも、ほとんどのトーナメントが早い者勝ちです。申し込んだ試合の全てがリスト表示され、当日の対戦表も後日同じ場所に掲載されます。何が一番すごいって、自分だけでなく登録選手なら、誰の戦歴でも閲覧できることです。

    ちなみにこの4年間で、わが子たちは自宅を拠点に、車で片道155km、2時間の範囲内に遠征し、23ヵ所のクラブで試合に出場し、それぞれ150試合くらい戦いました。2人いるので、筆者はほぼ350試合つきそったことになりますね(!)。月に2トーナメント、年間で一人40試合戦っている計算です。日本とは違い、試合は全て3セットマッチ(たまに3セット目は10ポイント先取のスーパータイブレークもあり)ですから、スイスジュニアの試合経験は相当なものとなります。練習半分、試合半分。正に、習うより慣れろ、といった環境です。実際にわが子たちは、習い始めてから約半年後、2~3回のラリーとポヨ~ンとしたサーブが入るようになってすぐ、当時のコーチから「試合にもう出られるよ。勝つのは難しいけれど。」とアドバイスを頂き、そんなレベルから試合に出始めています。

    スイステニスのランクは、下からR9~R1、その上にN4~N1とあります。誰もがR9からスタートし、試合結果に応じてランクが上下します。オフィシャルなランクは、年に二回、4月と10月に確定されます。現在、月1CHF支払えば、毎月の暫定ランキングも見られるようになっています。ただし、わが家も初期は興味津々で毎月チェックし一喜一憂していたのですが、現在はある程度のランクまで上がってしまい、そんなに変動もしなくなったので、最近ではマンスリーのランキングはほとんど見なくなりました。また、そもそもランキングは過去の実績に基づくもので、現在の実力を反映しているわけではありません。特に経験の浅いジュニアは、相手のランクを気にしすぎることでメンタルに悪影響を及ぼすことの方が多いので、ランキングは気にしない(見ない)方がいいというのが、筆者と子どもたちの結論です。

    ちなみに、先にふれたジェローム キム君は、スイス全国大会U14で優勝した時にはR1でしたが、U16の現在(15歳)でN2。12歳以下男子の全国大会優勝者はR2、R4から予選に選抜されます。子供たちのクラブの先輩で、高校卒業時にR1で、アメリカのNCAA一軍から奨学金付きでスカウトされた人がいました。身近で接する多くのコーチは少なくとも元N4です。

    自分のランクをたどった先に、N1のフェデラーたちがいる。なんて夢のある話でしょう!

    一方で、厳しい世界でもありますから、何を目指すかは人それぞれ。ジュニアテニスの魅力は、例えR9でも個々のレベルから少しでも上達すること、また、どうやったら勝てるか練習し模索し続ける過程にあると思います。

    テニスと勉強の両立

    スイス現地校にも、日本で言う中学生から高校生へ上がるタイミングで、大きな学力試験があります。その試験の結果が優秀で、大学進学コースに進むと決めた選手たちがスポーツと学問を両立をしていくことは、極めて難しいと言われています。何しろ、大学進学率は10%、さらに大学卒業率が10%、残念ながら、U16のカテゴリになると、選手数が半減してしまうのが現状のようです。

    その大事な学力試験を受ける前に、自分はスポーツ分野に進むべきか、向いているのかを見極めるため、U14からU16へ上がるくらいの年齢で、スペインへテニス留学するスイスのジュニアたちを多く見かけます。スイスでもトップジュニア選手になれば、スイステニスからスカウトされるのですが、そこまでのレベルに達しない場合は費用は自腹ですから、経済的にスイスよりも安く、異文化体験ができ外国語としてスペイン語の勉強にもなるということで、スペインがテニス留学先として人気のようです。

    U16になってもバンバン試合に出ている選手は、テニスの分野で生きていくと決めたか、勉強も捨てられないけどテニスも自分の中の大切な軸の一つにしていこうと、覚悟を決めた選手たちです。要は、テニスが大好きな選手たちです。アメリカがNCAAという仕組みを持ち、大学在籍時に学問とスポーツを両立できる環境を整え、日本もそれに追従しようとしている中、ヨーロッパにはテニスに集中する選手が大勢いて、たくましいなぁと筆者は思います。

    スイスのテニスクラブ環境

    スイスのテニスクラブのほとんどに、スポーツレストランやカフェが併設されています。振舞われる料理も通常のレストランにひけを取らず、日曜日も営業している所が多いので、大変ありがたいです(スイスでは日曜日はお店もレストランも基本やってないんです!)。試合の日は勝ち進めば一日がかりになることもあり、連れの小さな子どもが遊べる公園が併設されているのも嬉しいです。家族でテニスを楽しんだ後や真剣に一戦を交えた後に、グループで食事を楽しむ姿もよく見かけます。

    こういう光景を見ていると、テニスとは、つくづく社交的なスポーツなのだなぁと実感します。昨今の日本人選手の活躍で、テニスを始めるジュニアやそれをサポートする保護者の方も多くなってきていると思います。でも、勝つためだけのテニスでは、あまりにも消耗的で疲弊してしまいます。是非とも、スイスのようなのどかなテニスクラブの環境を、日本でも整備していってほしいと、心から願います。

    また、スイス全国30,000人、4,000チームが参加するスイス全国クラブ対抗戦(インタークラブ)という、老若男女参加できる素晴らしいイベントがあります(詳しくは「スイス全国テニスクラブ対抗戦」ご参照)。

    以上、スイスでジュニアテニスにどっぷりつかっている筆者の、スイスジュニアテニス事情のご紹介でした。少しでも、皆さんのインスピレーションになれば嬉しいです。

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